男性中心企業の終焉

書評というよりメモ書き
男性中心企業の終焉
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 日本のジェンダーギャップ指数の順位は年々下がっていく。2022年7月に発表された順位は116位(146カ国中)。なぜ順位は後退し、日本の男女格差は縮まらないのか。
 印象に残った箇所を下記に記したい。

D&I、Diversity & Inclusion(多様性と包摂)

 女性が活躍するためにはD&I、Diversity & Inclusion(多様性と包摂)の施策が必要になってくる。しかしそれを阻むのが女性に対するバイアス(偏見)である。

 メルカリがホームページで公開している研修資料を見ると、研修の目的は「無意識のバイアスを全てなくす」ことではなく、無意識のバイアスを「理解し」「自分の中や、自分と他者の間にある無意識バイアスを意識」することだとしている。バイアスがあることを前提にするだけで、これまで当然のように思っていた習慣を見直したり、自分の中でモヤモヤしていた違和感を口に出せたりするようになるという。

p29-p30

 しかし、無意識のバイアスを意識することはなかなか難しい。

 アンコンシャス・バイアスを理解する上で、度々登場するのがアメリカのオーケストラの事例だ。
 1970年~80年代、アメリカの音楽学校を卒業する女性は40%を超えていたが、プロのオーケストラ団員のほとんどは男性で、70年代の女性比率は5%だったという。この状況に問題意識を持ったオーケストラが、受験者と審査員の間に衝立を置く「ブラインド・オーディション」という方法を採用したところ、女性の合格者が大幅に増えたということだ。
 この事例が示すのは、人がどれだけ視覚情報や属性に左右されているかということだ。ブラインド・オーディションでは受験者の性別や年齢、外見はわからず、審査員は純粋に演奏だけを聞いて判断する。その結果として女性が増えたということは、それまでは「女性である」だけで何らかの不利な判断をされていたということだ。

P156

 しかし一方、

 日本ではこうしたアンコンシャス・バイアスに加え、まだまだコンシャス(意識的)な差別も根深い。象徴的なものが2018年に発覚した東京医科歯科大学など複数の大学医学部で女性受験者の得点を減点し、女性合格者数を抑えていた事件だ。
(中略)
 これは医師の世界に限った話ではない。
 企業の人事部に取材をすると、入社試験や面接では女性の方が優秀、高得点だという声は多いが、蓋を開けてみると、男性の方がより多く採用されていることはままある。
(中略)
 「女性は出産したら……」という女性への偏見の一方、「男性は長時間労働も転勤も厭わないだろう」という男性への過度な期待、思い込みが反映されているのはでないか。

p157-158

キャリア形成を視野に

 こういったバイアスをなくしていったとしても、女性のキャリア形成のための見通しを立てられるよう、制度を整えることも必要になってくる。

 キリンだけでなくリクルートやパーソルなどいくつもの企業で女性のリーダーを育てる岡島さんは、特に女性には「前倒しのキャリア形成の重要性」を訴える。
 「女性は出産などのライフイベントの前にいかに『勝ち癖』をつけるかがその後のキャリアにとっては重要。こうした研修だけでなく、20代で3つの部署やプロジェクトを経験させて欲しい。そうすると育休から復職する部署の選択肢も増えます。でも実際はアンコンシャス・バイアスもあって、女性にはこの仕事は無理といって外したり、ワーキングマザーに配慮し過ぎてオポチュニティロス(機会損失)になっていたりするケースが多いのです」

p169

経営トップの本気度

 そしてこういった制度を推し進めたり、意識を変えていくためには経営トップの本気度をいかに社員に浸透させていくかも大事になってくる。

女性を増やすことは(大手商社丸紅の)柿木社長の長年の信念でもあるという。「このままでは日本はずっと変わらない」。それが社長の口癖だ。社員との座談会の場では、「いつまでも男性中心の組織でいいのか、育児で女性にしかできないのは出産だけ。性別で役割を固定化するべきではない」というメッセージを常に送り続けてきた。

p190

 取締役会で男性育休100%宣言をするかどうかの議論が続いていた際、「育休を取りたくない男性だっている」という意見に対して、ある男性取締役はこう述べたという。
 「育休を取らない権利ではなく、僕たちは取りたくなるように仕向けなくてはいけない。育休を取る男性を増やすのが、僕ら役員の仕事ではないのか。そういう組織風土にして、一人の人間の中に多様性を作るということが、これからの世の中にどれだけ大切か考えた方がいいのではないか」

p204

最後の壁は家庭と夫の家事育児進出

 最後の壁は、家庭での性別役割分担の固定化をいかに崩していくかにある。ここを変えなければ、意識レベルで変えなければ女性に家事、育児の上に仕事が覆いかぶさり、結局仕事をあきらめざるをえなくなってしまう。

 2022年4月からは改正育児・介護休業法が施行され、男性の育休取得が段階的に義務化されることになった。まずは配偶者が妊娠した場合、企業は対象者に育休制度の周知と取得の意向を確認することが義務付けられ、10月からは産後8週間以内に取得できる「産後パパ育休」が使えるようになる。さらに2023年には大企業を対象に男性の育休取得率の公表が義務付けられる。

p247

ダイバーシティの重要性

 社会で、会社で、女性が活躍することがなぜ必要なのか。
 もちろん、女性が経済的に自立をし、自らの選択肢を増やすということが重要であるが、ダイバーシティ(多様性)の重要性についても考えていかなければならない。

 「移民」を受け入れようとしない日本では、ただでさえ同質性の高い組織になりやすい。特に日本では意思決定層は日本人、男性、50代以上という非常に偏った属性ばかりになる。だからこそ、より意識して女性や若手、外国人を採用、登用していかなければモノカルチャーな風景が劇的に変わることはない。
 同質性の高い組織がどれほどリスクが高いのか。

p238

 浜田氏は「はじめに」のところで下記のように締めくくっている。

企業が変われば社会も変わっていくと、私は信じている。それだけの原動力になる力が企業にはある。ぜひ先進的な取り組みを学び、進化していく企業が1社でも増え、そこから社会の変化が生まれることを願っている。

はじめに

 企業がはじめなのか、社会(家庭)がはじめなのか。本書では企業での取り組みについて書かれている。
 果たして政治が果たす役割はどうなのだろう。ジェンダーギャップ指数の順位は116位だが、経済分野では121位とさらに順位を下げる。しかし、政治分野では139位と目を覆いたくなる有様だ。

 森さんは「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」が、「五輪組織委員会の女性理事はわきまえていらっしゃる」と話した。つまり意見も言わず空気を読んで「わきまえている」女性たちを、男性中心の組織や一部の男性リーダーたちが「良きお手本」「正しいお作法」と認識していたことが露わになった。

p238

 元首相がこの体たらくなので、企業に期待するしかないのか。

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